2022年9月29日(木曜日)、東京 六本木にある国立新美術館で開催中の李禹煥展にいってきました。天気は曇り、夏の暑さが消え日光はないですが、出かけるにはちょうどいい気温です。日比谷線の六本木駅下車、ミッドタウンを通り抜け、綺麗な地下道を歩きながら国立新美術館へむかうことができます。
李禹煥(リ・ウファン)は国際的にも大きな注目を集めてきた「もの派」を代表する美術家で、東京では初めてとなる大規模な回顧展を開催です。直島の李禹煥美術館に行ったことのある方も多いと思いますが東京で開催してもらえるのは有り難いことです。
展示スペースについて
後でも記述しますが、作家が重要としているテーマや、また、作品自体はシンプルなものが多く「展示方法や展示スペース」も鑑賞者に与える印象に大きく影響するので、直島の李禹煥美術館(建築家安藤忠雄さんによる設計)に行きたくなる回顧展でもありました。
個人的に美術館の真っ白な壁に囲まれた部屋や壁は好きなので、国立新美術館でも作品を楽しめたのですが、違う展示スペースでも作品を鑑賞したいとも思える作品群です。
作品自体の撮影はほとんど禁止されていたので、興味ある方は李禹煥展公式サイト(https://leeufan.exhibit.jp/)から確認してみてください。東京の後は兵庫を巡回するので関西・中国地方エリアの方は兵庫県立美術館に足を運ぶのがオススメです。
もの派とは?
まず展覧会に行く前に理解しておいた方がいいことは「もの派」は1968年頃〜70年代中期までにわたって存在したアーティスト10数名の表現傾向に与えられた名称になります。
日本美術史において新しく現れた独特な表現の傾向を、言葉で示すために作られた新しい言葉です。西洋美術史とは距離があり、欧米中心の西洋美術史の流れから生まれた言葉ではありません。ただ「もの派」の表現は海外からの評価が高く、日本から世界に受け入れられた表現になったのも注目すべきポイントです。
現に「李禹煥」はヨーロッパを中心に活動を行なっているアーティストです。
1960年、70年代の日本とは?
もの派が活躍しだした時代は、少し昔の日本なので当時の日本社会の状況を見ていきましょう。令和の今とは社会状況が全く異なります。
いわゆる「高度経済成長」時代で、戦後壊滅的な社会から立ち上がり日本全体の経済が成長し、いわゆる日本が豊かになっていった時代です。東京オリンピックが開催されたのも1964年。また同年に東海道新幹線が開通したり、高速道路や都市高速道も次々と開通し、社会インフラも整いはじめたのもこの時代です。急激な社会成長とともに公害問題も生じ、小学校や中学校で習ったような公害問題もこの前後の頃の話になります。
つまり、1960年、70年代の日本とは、環境保護に意識がむかう前、ものを大量生産し、普及させ、消費することに集中していた時代です。社会全体で「環境保護」「エネルギー」「資源」といったことに意識がむかうのはまだまだ後の時代になっています。
1950年代は日本の各家庭に「TV、洗濯機、冷蔵庫」が普及し、次に「掃除機」、60年代は「カラーテレビ、クーラー、自家用車」が普及しはじめた頃です。日本人全体の生活が戦後から復興し徐々に便利になり豊かになっていきました。
なんとなく「もの派」の表現を生まれ、注目された時代の日本が理解できたでしょうか?
マルセル・デュシャンの泉から50年経過
マルセル・デュシャンの泉が制作されたのは1917年。「もの派」が誕生したのは、近代美術から現代美術、ヨーロッパ近代芸術からアメリカ現代美術へ移行し、視覚的な芸術から観念的な芸術へと価値観が移行するターニングポイントとなった年から約50年経過したころでもあります。
現代アート初心者さんはここを理解しましょう!
「もの派」は、この観念的な芸術に移行した後の表現であるということを理解していないと、美術館に行っても何がなんだか分からなくなります。「現代アートってよく分からない。。。」という方は、「観念的な芸術作品」ということを理解した上で足を運んでみてください。それでも何がなんだか?という方もいると思います。
私もコツコツ勉強していっていますが今だに分からないことだらけです。。。それでもなんか気になる、好きかも、好奇心をくすぐられると感じるのが現代アートの不思議な魅力です。
関係性
ほとんどの作品に共通しているテーマとして「関係性」があります。
・作品
・空間
・余白
・異なる物質
・環境
・重力(目に見えない)
・先入観・常識(目に見えない)
・時間(目に見えない)
・風(目に見えない)
・鑑賞者
といった要素の関係が重要視されています。
作品によってコンセプト・主題は異なりますが、さまざまな要素の関係性を用いて制作された作品が展示されています。一つの作品にわかりやすい主題(観念や意味)を設定して作品を制作するのではなく、ものと場所、ものと空間、ものともの、ものとイメージの関係に着目しています。
珍しいメイキング映像
「李禹煥」展 メイキング映像が「朝日新聞 Arts & Culture」で公開されています。どのように美術展が準備されているのか垣間見れる貴重な動画です。
https://www.youtube.com/watch?v=jSMXPnjnI_0
李禹煥(Lee Ufan)
1936年韓国生まれ。ソウル大学校美術大学入学後の1956年に来日。1961年日本大学文学部哲学科卒業。1960年代末から始まった戦後日本美術におけるもっとも重要な動向の一つ、「もの派」を牽引した作家として広く知られている。
李禹煥展
東京
会期:2022年8月10日(水)~11月7日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
兵庫
会期:2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)
会場:兵庫県立美術館
参考
李禹煥展公式サイト:https://leeufan.exhibit.jp/
李禹煥美術館(直島):https://benesse-artsite.jp/art/lee-ufan.html
AERA 李禹煥と佐藤可士和が現代のアートを語る「芸術とは『生』の実感を呼び覚ますもの」:https://dot.asahi.com/aera/2022092800093.html?page=1
兵庫県立美術館:https://www.artm.pref.hyogo.jp/
国立新美術館、兵庫県立美術館での展覧会公式図録
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